1. 「忘れた頃にやってくる」をどう捉えるか
古くからの格言に、「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉があります。物理学者であり随筆家でもあった寺田寅彦が遺したとされるこの言葉は、現代を生きる私たちにとっても、色褪せることのない警句です。
しかし、情報が溢れ、災害が常態化しつつある現代において、私たちは本当に「忘れて」いるのでしょうか。おそらく、知識としては誰もが「いつか来る」ことを知っています。それでもなお、日々の業務の忙しさや「自分だけは大丈夫だろう」という正常性バイアスによって、意識の隅へと追いやられてしまう。それが人間の性(さが)なのかもしれません。
先日、弊社では全社員参加による避難訓練を実施いたしました。この訓練を通じて私が改めて感じたのは、防災とは単なる「技術的な準備」ではなく、お客様や地域、そして共に働く仲間に対する「誠実さの体現」そのものであるということです。

2. 「一を以て貫く」精神とリスク管理
論語に「吾が道は一を以て之を貫く(わがみちはいつをもってこれをぬく)」という言葉があります。一つの信念を貫き通すことの大切さを説いたものですが、これはビジネスにおけるリスク管理にも通じます。
私たちの仕事の本質は、不測の事態に備え、お客様の安心を担保することにあります。その私たちが、自分たちの足元(オフィスやスタッフの安全)を疎かにしていては、説得力がありません。避難訓練という「一」の行動を真摯に行うことは、私たちが日頃掲げている「信頼」という理念を貫くことに直結しています。
訓練では、地震発生の合図とともにデスクの下に身を隠し、その後の火災発生を想定して避難経路を確保しました。実際に動いてみると、図面上の計算通りにはいかないことが多々あります。 「この通路に荷物があると、咄嗟の時に躓くのではないか」 「点呼の際、誰が誰を確認するか、もっと明確にできるはずだ」 こうした現場での微細な気づきこそが、机上の空論ではない、生きた「備え」となります。
3. 「艱難を共にする」組織の結束
「同じ釜の飯を食う」という言葉がありますが、私はそれ以上に「艱難を共にする(かんなんをともにする)」準備ができている組織こそが強いと考えます。非常事態において、リーダーがどう動き、スタッフがどう連携するか。避難訓練は、組織のチームワークを研ぎ澄ます最高の実践の場です。
今回の訓練中、スタッフ同士が声を掛け合い、誰一人取り残さないように意識して動く姿を見て、改めて自社のチーム力に確信を持ちました。 格言に「一人の百歩より、百人の一歩」という言葉があります。一人の防災エキスパートがいることよりも、スタッフ全員が同じ危機意識を持ち、等しく一歩を踏み出せること。その積み重ねが、有事の際にお客様の情報を守り、早期の業務復旧(BCP)を可能にする唯一の道なのです。
4. 地域社会への責任と「自助・共助」
私たちは地域に根ざし、地域に生かされている企業です。 「遠くの親戚より近くの他人」という言葉通り、大規模災害時には公的な支援(公助)が届くまでに時間がかかります。その時、真っ先に頼りになるのは自分自身(自助)、そして隣近所の助け合い(共助)です。
企業が避難訓練を行うことは、単なる自己防衛ではありません。「あの会社はいつも訓練をしているから、いざという時も冷静だ」と地域の方々に思っていただけるような存在、あるいは有事の際に周辺の方々を誘導したり、一時的な避難をサポートしたりできる存在でありたい。 「情けは人のためならず」。この言葉の真意は、他人に親切にすれば巡り巡って自分に返ってくる、というポジティブな連鎖を指します。地域全体の防災力が上がれば、それは巡り巡って私たちの事業継続を支える基盤となります。
5. 最後に:未完の備えこそが「安心」を作る
「備えあれば憂いなし」と言いますが、私はあえてこう付け加えたいと思います。 「備えを完璧だと思った瞬間に、憂いが生じる」のだと。
避難訓練に「終わり」はありません。時代が変われば建物も変わり、IT環境も変わり、避難の仕方もアップデートされる必要があります。今回の訓練で見つかった改善点は、すぐさまマニュアルに反映させました。しかし、それで満足することなく、また次回の訓練では新しい課題を見つけ出す。この「絶え間ない改善」のサイクルこそが、お客様に提供できる最大の誠実さであると信じています。
「一日の計は晨(あした)にあり」。 物事は最初が肝心であり、日々の準備が重要であるという意味です。 私たちはこれからも、毎朝のルーティンを大切にするように、防災という日常の準備を怠ることなく、地域の皆様と共に歩んでまいります。
今回の避難訓練を通じて、スタッフ一人ひとりの目に宿った「守るべきものへの責任感」を、これからの業務にも活かしていければ幸いです。
皆様もぜひ、この機会に大切な方との連絡手段や、身近な避難場所を再確認してみてはいかがでしょうか。