はじめに:救急車の中で、命を守る“情報”が活躍する時代へ
2025年10月1日、「マイナ救急」が全国で本格的にスタートします。これは、救急搬送時にマイナンバーカード(マイナ保険証)を活用して、患者の医療情報を即座に確認できる仕組みです。救急隊員が現場で本人確認と同意取得を行い、専用端末で受診歴や薬剤情報を閲覧することで、搬送先の選定や処置の精度が大きく向上します。
この制度は、医療DXの一環として位置づけられていますが、単なる技術革新ではありません。命を守る判断を支える「情報の力」を、現場でどう活かすか──それが問われる時代になったのです。
地域密着型の保険代理店を運営する私たちにとっても、医療と保険の接点を考えるうえで非常に重要な制度です。今回は、「マイナ救急」の仕組みと社会的意義、そして保険業務との関わりについて、現場目線で掘り下げてみたいと思います。
「マイナ救急」とは?──制度の概要と運用の流れ
「マイナ救急」は、救急隊員が傷病者のマイナ保険証を専用端末で読み取り、過去の医療情報を確認することで、より的確な搬送と処置を可能にする制度です。2025年10月から全国の消防本部・救急隊で一斉に導入されます。
運用の流れ
- 119番通報時:指令員が通報者にマイナ保険証の準備を依頼
- 現場到着後:救急隊員が本人確認(顔写真と照合)
- 同意取得:意識がある場合は口頭で同意、意識不明時は生命保護のため同意不要
- 情報閲覧:専用端末でマイナ保険証を読み取り、医療情報を確認
- 処置・搬送:情報をもとに適切な処置と搬送先を選定
この一連の流れにより、救急現場の滞在時間が短縮され、搬送の精度が向上することが期待されています。
閲覧できる医療情報の内容
救急隊員が閲覧できる情報は、以下の通りです:
| 項目 |
内容 |
| 受診歴 |
過去5年分の医療機関名・診療内容 |
| 薬剤情報 |
電子処方箋・服薬履歴(注射・点滴含む) |
| 手術情報 |
過去の手術履歴 |
| 特定健診 |
健診結果(最大5回分) |
※税・年金など医療と関係ない情報は閲覧不可。端末にも情報は保存されません。
この情報は、厚生労働省が管理する「オンライン資格確認等システム」を通じて取得され、セキュリティ面でも厳格な管理が行われています。
なぜ「マイナ救急」が必要なのか?
救急医療の現場では、患者の情報が不明なまま処置や搬送を行うケースが少なくありません。たとえば:
- 傷病者が意識不明で、病歴や服薬情報が分からない
- 家族が動揺していて、正確な情報を伝えられない
- 救急隊が口頭聴取に頼ると、搬送先の選定に時間がかかる
こうした状況では、誤った処置や搬送先の選定ミスが命に関わることもあります。「マイナ救急」は、こうしたリスクを減らし、命を守る判断を支える情報インフラとして機能するのです。
全国展開の規模と準備状況
2025年10月から、「マイナ救急」は全国720消防本部・5,334隊の救急隊で一斉導入されます。2024年度までに67消防本部で実証事業が実施されており、救急現場の滞在時間が短縮されるなど、有用性が確認されています。
専用端末はMNO(大手通信事業者)回線を使用し、通信の安定性とセキュリティも確保されています。また、救急隊員向けの研修も順次実施されており、現場での運用体制も整いつつあります。
社会的意義──命を守る情報連携の力
「マイナ救急」がもたらす社会的意義は、非常に大きなものがあります。
1. 医療現場の負担軽減
医療機関は、搬送された患者の情報を一から確認する必要がなくなり、処置の精度とスピードが向上します。特に高齢者や持病のある方にとっては、命を守る大きな支えになります。
2. 救急隊の判断支援
救急隊員は、限られた時間と情報の中で搬送先を選定する必要があります。「マイナ救急」によって、客観的な医療情報に基づいた判断が可能になり、搬送ミスのリスクが減少します。
3. 家族の安心感
家族が動揺している場面でも、マイナ保険証があれば正確な情報が共有されるため、安心して救急対応を任せることができます。
制度の課題と留意点
「マイナ救急」は画期的な制度ですが、課題もあります。
マイナ保険証の登録率
2025年4月時点での登録率は約67.2%。まだ未登録者も多く、制度の恩恵を受けられない人が一定数存在します。周知活動と登録支援が今後の課題です。
同意取得の扱い
意識不明時は同意不要とされていますが、プライバシー保護とのバランスが問われます。制度の透明性と説明責任が重要です。
通信・端末の安定性
専用端末の通信が不安定な場合、情報取得ができない可能性もあります。現場でのバックアップ体制やマニュアル整備が求められます。
マイナ保険証の登録率
2025年4月時点でのマイナ保険証の登録率は約67.2%。制度の恩恵を受けるには、マイナンバーカードに健康保険証機能を紐づける必要がありますが、まだ未登録者も多く、特に高齢者層では登録率が低い傾向にあります。
保険代理店としては、顧客との面談時や契約更新のタイミングで「マイナ保険証の登録はお済みですか?」といった声かけを行うことで、制度の普及に貢献できます。これは単なる制度説明ではなく、「命を守る情報の準備」としての啓発活動です。
同意取得とプライバシー
意識不明時には本人の同意なしで情報閲覧が可能とされていますが、これは「生命保護のための例外措置」です。制度としては合理的ですが、プライバシー保護とのバランスをどう取るかは、今後も議論の余地があります。
保険業務においても、個人情報の取り扱いには細心の注意が必要です。マイナ救急のような制度が広がることで、情報管理の重要性がさらに高まることを意識しておく必要があります。
通信・端末の安定性
救急現場では、通信環境が不安定な場所もあります。専用端末はMNO(大手通信事業者)の回線を使用していますが、山間部や災害時などでは通信が途絶する可能性もあります。
そのため、救急隊員には「情報が取れない場合の対応マニュアル」も整備されており、制度の信頼性を支えるバックアップ体制が構築されています。
おわりに:情報が命を守る時代に、私たちができること
「マイナ救急」は、医療と情報がつながることで、命を守る判断がより正確に、迅速に行えるようになる制度です。これは医療DXの象徴であり、地域社会にとっても大きな進化です。
保険代理店として、私たちができることは、制度の正しい理解と、顧客への丁寧な説明。そして、保険設計や生活支援を通じて、地域の安心づくりに寄り添うことです。
制度は紙の上のルールではなく、人の暮らしを支える仕組みです。この10月、「マイナ救急」の全国展開をきっかけに、医療と保険の接点を見直し、地域とともに歩む新しい一歩を踏み出していきましょう。